2020.12.21

第二会社方式とは?第二会社方式の仕組み・メリット・注意点を解説!

「企業再生の手法である第二会社方式とはどのような仕組みなのだろう…」
「第二会社方式の全体図がなかなか把握できないので網羅的な情報を探している…」
優れた経営者であっても、昨今の状況からお分かりになる通り、情勢の変化などで多くの負債を抱えてしまうことがあります。会社を立て直す企業再生の方法はいくつかありますが、比較的用いられるのが第二会社方式です。

大きなメリットがある一方で問題視されることもある、第二会社方式とはどのような手法なのでしょうか?今回は、第二会社方式とは何か?という基本的な知識から、第二会社方式のメリットや注意点まで網羅的に解説していきます。

第二会社方式とは?

第二会社方式は、いわゆる再生型M&Aの手法の1つで、第二の会社を利用して経営再建を目指します。どのような手法であるのか、より詳しく見ていきましょう。

優良事業を継続できる企業再生方法

第二会社方式の一番の特徴は、収益性の高い優良な事業を他の会社(第二の会社)に移すことで存続させ、元の会社は消滅させる点です。移転先となる会社は新しく興すこともあれば、既存の企業に受け皿となってもらうこともあります。受け皿となる会社としては、優良事業のみを継承できるのが利点です。

第二会社方式のスキームについて

第二会社方式には大きく事業譲渡と会社分割の2つのスキームが存在し、それぞれ異なった特徴があります。続いて、事業譲渡と会社分割について詳しく見ていきましょう。

事業譲渡

事業譲渡は、先述の通り会社の良い部分を第二会社に譲渡するスキームです。債権や債務を契約者と合意の上で承継していくことになりますが、買い手側は契約で明記された以外の債務に関しては、引き継ぐ必要がないというメリットがあります。

ただし、事業譲渡では売り手側と買い手側の双方に消費税がかかりますので、この点はデメリットであると言えます。また、契約や名義変更を個別にそれぞれする必要があるため、手続きが煩雑になってしまいます。

会社分割

会社分割というのは、会社を分割させて新たな会社や他の会社に包括承継(事業または会社単位で一括して承継する)させる方法です。事業譲渡の場合には、手続きとして契約や名義変更をそれぞれする必要がありましたが、会社分割であれば個別の合意は不要ですので、手続きの手間は事業譲渡に比べて少なくなります。

また、消費税は非課税となり、不動産取得税や登録免許税などの軽減措置を受けられます。ただし、許認可などの契約関係だけでなく、資産含めて負債も引き受けてしまうのがネックな点です。

新設分割と吸収分割とは?

会社分割は既存の会社に事業などを移転する吸収分割と、新設会社に移転する新設分割の2種類が存在します。分割の対象になるのは、その事業を運営する上で管理している資産や負債、取引先との関係、販路、雇用計画などです。

会社分割では、先に挙げた権利義務を事業部門全体で分割する場合と、切り分けて特定の権利義務のみを分割する場合がありますが、主に事業部門全体を分割する方が選ばれています。

新設分割の仕組み

新設分割は既存の会社の事業を分割し、新たに設立する会社に承継させるパターンであり、”新たな会社の設立とともに”既存の会社の事業を移転させます。新設分割の対価としては、新たに設立する会社の株式が交付される必要があり、社債、新株予約券、新株予約付社債の交付も可能です。

新設分割における分社型分割と分割型分割

新設分割は、さらに分社型分割と分割型分割に分けられます。分社型分割は、分割の対価を既存の”会社”が受け取るパターンになり、分割型分割は既存会社の”株主”が受け取るパターンになります。

株主が対価を受け取る場合(分割型分割)には、金銭以外の財産による現物配当の形で引き渡されます。

分社型分割の場合は既存の会社が新設会社に対する株主となり、全株式を既存の会社が取得する場合には、完全に親会社と子会社としての関係が成り立ちます。

共同新設分割

複数の会社がそれぞれの事業を新設会社に承継させることを、共同新設分割と呼びます。共同新設分割で複数の会社が承継に関わる場合も、先ほどの分割型分割と分社型分割の仕組みは同じになります。

つまり、共同新設分割の分社型分割では、”複数の既存会社に対して”株式が交付され、共同新設分割の分割型分割では、”複数の既存会社の株主”に対して配当されます。

複数の会社が承継に関わるため、気になるのが分配比率かと思います。この分配比率は、新設会社に承継する事業の価値が影響し、事業の価値が高いほど分配比率も高くなります。

吸収分割とは?

先ほどの新設分割では、新しく設立された会社に承継させるものでしたが、吸収分割の場合は、分割した事業を別の既にある会社に承継されます。

新設分割の対価は株式に限られましたが、吸収分割の対価は金銭などの株式以外の財産にすることもできます。吸収分割の場合であっても新設分割と基本的に同じ仕組みになっており、吸収分割の分社型分割と吸収分割の分割型分割があります。

会社分割では分割される事業の権利義務がまとめて承継されますが、一部の業種では許認可の承認がなされず、承継を受ける側が許認可を取得する必要があります。

吸収分割と新設分割の許認可取得について

吸収分割の場合であれば、承継会社(承継を受ける側)が事前に許認可を取得しておき、分割が成立した際に事業を開始できます。

しかし、新設分割の場合新設会社を設立した後でないと許認可申請をすることができません。つまり、承継する事業に関しては新設分割における新設会社は立ち上げ後すぐに開始できないのです。

会社分割と事業譲渡の違いとは?

会社分割の場合では会社の事業を分割させて、新たな会社や既にある会社に権利義務をまとめて承継させますが、事業譲渡の場合では権利義務を個別に移転する手続きを要します。

新会社の設立後に事業譲渡のパターンを利用すれば、実質会社分割の新設分割と同じような結果になりますが、事業譲渡の場合ですと権利義務を個別に承継させる必要があるため、承継に関わる手続きは大きく変わります。

また、会社分割では基本的に株式が対価となりますが、事業譲渡の場合には一般的に現金が対価になります。

膨大な量の権利義務がある場合は会社分割

会社分割では、権利義務をまとめて承継し、事業譲渡では権利義務を個別に移転するわけですので、膨大な量の権利義務がある場合には、会社分割の方が手続きは少なく、コストを抑えることに繋がります。

許認可に関しても、事業譲渡では許認可をすべて取得する必要がありますし、事業譲渡成立後に許認可申請を進めなければならないものもあるため、事業譲渡では引継ぎに時間がかかってしまうことが考えられます。

新設分割はどのような場合に利用されるのか?

新設分割は、組織再編を行う場合に適しています。例えば既存会社の事業を切り出して子会社を作る場合だったり、複数の会社から関連する事業を新設会社にまとめるなど、グループの事業整理や統合に利用されます。また、第二会社方式での新設分割としても活用されます。

第二会社方式での新設分割の流れ

続いて、第二会社方式での新設分割のおおまかな流れをお伝えします。

企業再生を図るために会社の将来性ある優良事業を分割し、それを新設会社に移転すれば、既存会社は対価として新設会社の株式を取得します。

優良事業を引き渡された新設会社は、スポンサー企業などから支援をもらい、拡大を目指します。そして、不良事業のまとまった既存会社は、清算手続を行うわけですが、清算手続に伴って既存会社が取得していた新設会社株式をスポンサーに譲渡して、現金化したものを弁済に充てます。

事業譲渡と会社分割のどちらを採用するか?

第二会社方式には、事業譲渡と会社分割の2種類があるとお伝えしましたが、どちらを選ぶかによって、税制面や手続きにおいても変わるため慎重な判断が求められます。会社の規模や、許認可の有無、負債額やスポンサー企業との関係など、あらゆる面を加味する必要があります。

破産と第二会社方式との違いとは?

多額の負債がある会社は破産の選択肢もありますが、会社をそのまま清算すると取引企業や従業員の生活に大きな影響を及ぼします。

一方で、第二会社方式で優良事業を残すと、一部の取引企業や従業員は基本的には従来と変わらない業務が可能になるため、企業再建による影響も少なくなります。
連鎖的な倒産や失業者増加の抑制ともなる第二会社方式は、意義のある企業再建方法といえるでしょう。

第二会社方式のメリット

第二会社方式のメリット

第二会社方式での企業再生には、いくつかのメリットがあります。続いて第二会社方式のメリットについて見ていきましょう。

移転先で収益が見込める

経営者にとって思い入れのある優良事業を残せることをお伝えしてきましたが、それにより取引企業や従業員への影響を抑えることができたり、移転先で収益が見込めたりする点がメリットになります。

破産手続きでは、採算が取れる黒字事業も含めてすべてが消滅してしまうわけですが、第二会社方式を採用すると残った優良事業で再スタートを切り、拡大も可能です。

回収不能の債権を損金計上できる

採算する元の会社に残る債権は回収できなくなりますが、債権者は回収不能の債権の損金計上が可能となることから、金融機関の協力が得やすくなるといわれています。

想定外の債務リスクの心配がなくなる

多くの債務が元の会社に残ることで、優良事業を引き受ける会社は想定外のリスクがなくなります。そのため、第二会社方式は優良事業の社会的価値をほとんど損なわれず、スポンサーなどからの協力が得やすくなると考えられます。

金融機関から借入ができなかったとしても、スポンサーの支援により優良事業の資金確保も可能であり、それが安定運営につながります。

第二会社方式を選択する際の注意点

優良事業のみを残せる第二会社方式は、取引企業や従業員の生活などを考慮しても利点の多い企業再生法といえますが、注意しなければならない点もあります。第二会社方式を選ぶ前に一通り確認しておきましょう。

第二会社方式でネックになる優良事業移転後の問題

第二会社方式で優良事業がスムーズに承継できたとしてもまだ安心できません。事業移転後に第二会社方式ならではの問題が待っています。

  1. 営業に必要な許認可の取得や取得に至るまでの時間と経費
  2. 不動産移転による課税
  3. 新会社設立や設備投資などの費用の調達

事業譲渡の場合、優良事業を承継する会社は営業に必要な許認可を取得する必要があり、それには時間や経費がかかります。さらに、必ず認可を受けられるとは限らないため、承継した優良事業を再開できない可能性もあります。

また、不動産の移転が伴えば不動産取得税や登録免許税が課税されるためコストが増えます。加えて優良事業を再開するにあたって設備投資などが必要になるケースもあるでしょう。

しかし、もともとは負債を抱えて第二会社方式を選択したのですから、融資を受けるのは難しい状況にあります。資金調達方法はあらかじめ検討しておく必要があるでしょう。

やってはいけない負債処分を目的とした事業分割

第二会社方式の概要を理解すると、「債務の返済をまぬがれる方法としても第二会社方式は利用できるのではないか」と考える方もいます。実際のところ、経営が悪化して会社を清算するかどうかといった瀬戸際で第二会社方式を選択するのではなく、抱えた負債の免除を目当てに事業を分割している事例もあります。

当然ながら、このような第二会社方式の活用は本来の目的に沿っておらず、債権者への返済の義務を不当にまぬがれているといえるでしょう。

負債の免責だけならば魅力的に映るかもしれませんが、実際には新会社へ移転しても信用の低下は避けられず、悪評が広まれば取引にも影響する恐れがあります。

長期的な視点で考えても好ましいやり方ではありませんので、負債の免除を目的とした事業分割はやめましょう。

資金調達について

第二会社方式で事業を継続するのであれば、金融機関からの借入が難しくなってくることが考えられるため、当面の資金を準備してから実行することをおすすめします。

金融機関からすると、旧会社も新会社も同じ会社とみてしまうため、融資には積極的にはなれません。ですので、金融機関からの融資よりもスポンサー企業からの支援が、事業継続後の資金繰りで鍵となるでしょう。

産業競争力強化法とは?

産業競争力強化法は、経済対策である「アベノミクス」の一環として成立し、2014年に施工された法律です。成立した背景には低迷が続く日本経済の再興があり、以下のような特徴を持ちます。

  • さらなる成長を目指すための事業再編の後押し
  • 事業拡大を目指す企業のための規制改革
  • ベンチャー投資の促進
  • 創業支援 など

このように、創業期~成熟期まで対応する広い支援を行っています。そして、2018年の改正では、事業承継の促進や経営支援体制の基盤強化を目的とした措置が施されました。

認定制度について

産業競争力強化法には認定制度があります。会社が合併・会社分割・事業譲渡・増資などの事業再編や債務放棄を含む事業計画を実行するにあたり、主務大臣から認定されることで、税制や会社法上の優遇措置を受けることができます。

2018年の改正により税制上の措置や会社法の特別措置、M&A面での措置が行われていますので、第二会社方式のデメリットでもある許認可の引継ぎが保証されない面について、認定されれば解決できます。

産業競争力強化法は改正される

産業競争力強化法はその時代に合わせて改正されており、最近では2021年6月9日に改正産業競争力強化法が可決し、6月16日に公布されています。

改正産業競争力強化法は、昨今の新型コロナウイルス感染症による景気悪化や、人口減少などの中長期の社会情勢変化に対応するべく措置が講じられます。

<改正産業競争力強化法のポイント>

  • グリーン社会への転換…温室効果ガスの排出削減や吸収などを促すカーボンニュートラル実現に向けた取り組み
  • デジタル化への対応…デジタルトランスフォーメーション(DX)施策を推進する会社への支援
  • 新たな日常に向けた事業再構築…DXやカーボンニュートラル実現などに取り組む会社に対して、赤字の場合でも繰越欠損金の控除上限を引き上げる
  • 中小企業の足腰強化等を促進…大企業と中小企業の取引適正化や、中堅企業への金融支援の強化

産業競争力強化法は、第二会社方式を選択する場合に活用できるだけでなく、その他の支援も関わってくるため、経営規模の拡大を狙っている会社や、事業縮小で悩まれている会社など、さまざまな中小企業が知るべき法律であると言えます。

第二会社方式の検討をするならプロに相談

ここまでご覧いただいた方はお分かりになるとおり、第二会社方式と一口にいっても選択肢は1つではなく、細かく方法が分かれています。また、今回紹介した産業競争力強化法含めて、多くの法律が関わってきますので、弁護士や再建などに詳しいプロを交えなければ、進めることはできません。

複数の選択肢のある第二会社方式については、経営者もその仕組みをしっかりと理解した上で、決断しましょう。

まとめ:第二会社方式とは?第二会社方式の仕組み・メリット・注意点を解説!

いかがでしたか?今回の内容としては、

  • 第二会社方式は再生型M&Aの手法として第二の会社を利用して経営再建を目指すもの
  • 第二会社方式には大きく事業譲渡と会社分割の2つのスキームが存在する
  • 第二会社方式は優良事業を存続できたりスポンサー企業からの協力が得られやすいというメリットがある
  • 第二会社方式は複雑であるため弁護士などのプロを交えなければ実現は難しい

以上の点が重要なポイントでした。

再生型M&Aの1つである第二会社方式は、収益のよい優良事業を残し、一部従業員もそのまま仕事を続けられるなど、そのまま法人破産を選択するより、周囲への影響を少なくできるメリットがあります。

しかし、目的と手段を間違えると債権者に損失を与え、企業の信用も失うかもしれません。第二会社方式はメリットばかりではないため、専門家にも相談して慎重に結論を出すようにしましょう。

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