生活保護費は、何らかの事情により自立が難しい人が生活費として使うための費用です。
しかし、不正受給が発覚した場合は返還しなければならず、これを「返還請求権」と呼び「非免責債権」として扱われます。
この記事では、「返還請求権」と「非免責債権」について解説していきます。
生活保護費の返還が必要なケースとは~返還請求権~
生活保護を受給していて返還が必要となるのは「不正受給した」ものであり、その判断のもととなるのは以下になります。
- 保険解約返戻金がある
- 資産売却金がある
- 労働収入を申告していなかった
- 年金など他の保障制度と重複して利用していた
- 申告していない資産があった
- 世帯の人数を過剰に申告していた
上記のいずれかにあてはまる場合、受給した費用の返還をしなければいけませんが、生活保護法ではこの返還義務のあるお金には、2つの扱われ方があります。
不正受給をしたが故意ではなく、自主的に返納するなど悪意がない場合は「返還金」として扱われます。
虚偽の報告やケースワーカーからの指示に従わないなど明らかに不正を働く意図があった場合は「徴収金」として扱われます。
かつて返還金と徴収金の扱いは違った
現在は「返還金」と「徴収金」のどちらも原則全額返還で、非免責債権として扱われています。
なぜ同じ扱いなのに名称が異なるのかと言うと返還請求権の扱いが違うことと、法改正以前は、分けて考えられていたからです。
「返還金」は、一定の条件を満たせば自立更生費控除が認定され実質負担が減ることもありましたが、法改正以降厳しくなったようです。
「徴収金」はそもそも控除が認められませんし、最大40%上乗せされて請求することも可能です。
その後自己破産することになれば、返還金・徴収金共に非免責債権ですので、つまり破産後も返済の義務は残ります。
法改正された
以前は返還金・徴収金ともに一般債権として扱われ、免責の対象でした。
その後平成26年に行われた法改正でまず徴収金が非免責債権とされ、平成30年の法改正で返還金も非免責債権となります。
ただ、「徴収することが適当でないとき」は強制徴収が行えないと記載されています。
なぜ非免責債権があるの?
先述もしましたが、非免責債権とは、破産手続において免責されない債権のことで、つまり自己破産した後も支払う責任があります。
支払い義務全てを免責債権にしてしまうと、申立てをした人の過失が帳消しになって債権者の最低限の利益も守れなくなってしまいますので、そのようなことをなくすために、社会的に考えて公平であるべきものは、破産手続き後も免責されず支払いを続けるべきだと破産法253条で決められています。
非免責債権に分類される債権
法律で非免責債権として定められているものには、
- 各種税金
- 悪意の不法行為(詐欺や横領など)損害賠償
- 故意や重大な過失で他人の生命や体を害した時の損害賠償
- 養育費
- 従業員への未払い給与
- 故意に債権者名簿に記載しなかった債権
- 罰金
などがあります。
返還金の非免責債権化には反対の声もありましたが、不正受給した生活保護費も税金ですので法律上で考えたら当然だともいえます。
慰謝料は自己破産で免責されるのか?
加えて知っておきたいのが、慰謝料は免責されるのか?という点です。
事故などを起こしても重大な過失でなく、車同士の物損事故であった場合は免責対象になります。また、不貞行為による離婚慰謝料も配偶者へ直接加害したわけではないため免責の可能性があります。
しかし、直接的な暴力を振った場合の慰謝料は非免責の可能性があります。ですので、慰謝料と一口に言っても、暴力は非免責、不倫は免責というように状況に応じて免責・非免責の可能性が変わるということです。
まとめ:生活保護の返還請求権とは?破産後も免責されない債権に注意
生活保護は就労が困難な人のための制度ですが、不正利用する例も多く年々厳しくなっています。
返還請求権もかつては免責債権でしたが、本文でもご紹介した通り現在では非免責債権になっています。
故意ではなくても、不正受給に当たる行為をしてしまったと気が付けば早めに申告して対処してください。